朝、目覚めるとなにかわからない不安も一緒に起きてくる。今日寝る家がない、食べる物がない、病気をしている等。そんな形のある不安ではなく、ぶよぶよした形のない不安。前述した不安は、明日にでも現実のこととしておこるかもしれないが、それらにはある程度の答えはある。先輩や友達が災害にあって家をなくしたり、病気で辛い治療をし、長期療養を課せられたりしているので、彼等彼女等に習えば身の処し方を教えてくれる。
形のない寄るべない不安、腸の底の辺りがムズッとする感覚。川柳を、風刺漫画を読んで笑っても、ぽあんとした空気のような不安が残る。洗濯物を干していると、突然、洗濯物の裏側に黒い不安が膨らむ。
無題(ナンセンス) 吉原幸子
風 吹いてゐる
木 立っている
ああ こんなよる 立ってゐるの ね 木
風 吹いてゐる 木 立ってゐる 音がする
よふけの ひとりの 浴室の
せっけんの泡 かにみたいに吐きだす にがいあそび
ぬるいお湯
なめくぢ 匍ってゐる
浴室の ぬれたタイルを
ああ こんなよる 匍っているのね なめくぢ
おまへに塩をかけてやる
するとおまへは ゐなくなるくせに そこにゐる
おそろしさとは
ゐることかしら
ゐないことかしら
(後略)