「携帯の番号を教えて」と世話役のBさん。「持ってないのよ」と私。「今、時代に何故?」「面倒なんですよ」。「緊急の事が起こったらどうするの?」とBさん。「運命にまかせます」。
持たない理由は、そんな大袈裟なことではないのです。本当の理由は、便器の中に落としたり、飲み込んだりしたら大変だから・・・これも嘘。朝から読んでいる詩集“ささやかなこと”の詩句が点滅しているんです。
携帯電話
林嗣夫
用を足していて携帯電話を便器の中に落としてしまった
という人もいるのではないか
わたしのかけた電話がたまたま
むこうの汚物の中で鳴りだしたとしたら
(略)
切り餅をのみ込むように携帯電話をのみ込んで
わたしのかけた電話が
相手のおなかの中で鳴りだしたとしたら
声の予感のあやしい震えが どんなに体を満たすだろう
(略)
もしわたしのかけた電話が
相手の女性の膣の中で鳴り出したとしたら……
(もう
こんなへんなことばかり想像するんだから)
どこかの軍隊に ハイテク操作のミサイル攻撃を受け
体が裂けてしまった人のそばで携帯電話が鳴りはじめたら
もし
そんな現場にわたしの声が届けられることになったなら
愛してるよ、と
静かに はっきり 言えるだろうか