今年は寅年なのでポスターやカレンダー等で虎の絵とよく出会う。私は虎が大好き。ライオンほどの知名度もなく、額縁のようなタテガミもない。豹の持つ魅惑的な、ぬるりとした美しくしなやかな肢体もない。猛獣の王者というが、私が知っている本物の虎は、動物園で寝ているのを見ただけだ。咆哮する勇ましい虎は知らない。猛獣という印象はない。
九年前に手に入れた“とら虎トラ”展の図録を見ると、虎図の四分の三は、ヒョウキンに描かれている。人間に寄り添う友達。図録の中で一番怖い虎は、島田元旦の『猛虎図』。目が緑で赤い舌をチョロリ。鋭い歯も見える。縞模様も濃い黒で乱れた曲線。身の毛がよだつ。一番弱そうな虎は、宋紫石の『虎図』。垂れ目で肩をすぼめて、滝を後ろにして岩の先端にちょこんと座っている。「昨日、姉さんが亡くなったの。寂しいの」と言っている。添い寝をしてやりたいような儚さ。
一番近くに居てほしい虎は、広渡湖秀の『虎図』。なんでもわきまえていて、情の深い優しい渥美清のトラさんのような顔。なにせ背中の毛が七三に分けられていてユーモラス。「お困り事がありましたら、私にどうぞ。百虎力ですぞ」。
皆様がどこかで彼らに会えますように。寅年のうちに。