ひとたび印象派の魅力にはまってしまうと、なかなかにその呪縛から逃れられない。陽光の煌めき、色彩の輝き、生々しい筆使い、絵具の艶やかさ。誕生から150年ほどたっても相変わらずの大人気である。もちろん、気持ちがいいのだから息が続く限りその快楽に溺れ続ければいいのだが、以後の画家たちにとってはそういうわけにもいかなかった。「もっと魅力的なものを!」というわけで、未踏の領域に踏み込み探求を重ねた結果、絵画はわかりにくくなっていく。その上、訳が分かるものはなんだか貶められるようになっていくのである。この100年の間に、私たちは「芸術はわからない」というつぶやきを何度発してきたかしれない。ところが最近、「訳が分かる」派の画家たちが急速に息を吹き返してきた。見たとたんにため息がこぼれ出るような絵を描くのである。
その重鎮ともいうべき画家・野田弘志の回顧展。4月27日から山口県立美術館にて開催します。写実の醍醐味をたっぷりとご堪能ください。
山口県立美術館副館長 河野 通孝