この絵のタイトルは、≪マンゴー≫。紹介しているのは、その部分です。
「んっ! マンゴー? これが?」。もちろんこれはキウイ。実はこの絵は、干からびたバラ、少し傷んだマンゴー、そして2個のキウイが、一面の黒をバックに注意深く配置された静物画なのです。
じっと見ていると、克明に描かれた一つ一つが、音も立てずに闇の中に浮かび上がってきます。この静寂もまた、この絵の魅力の一つといえるでしょう。
しかし、細部の迫真の描写こそが、この静物画を描いた画家・野田弘志の真骨頂。触ると「カサカサ」と乾いた音を立てそうな葉っぱ。指で押すと「グジュグジュッ」と凹みそうな熟したマンゴー。そして、この、なんの変哲もないキウイ。一本一本描かれた表皮の毛は圧巻です。
「ジョリジョリ・・・」。
50年前、まだ珍しかったこの奇妙な物体を初めて触った時のあの感触がまざまざと蘇ってきました。
※「野田弘志展―真理のリアリズム」(6月19日まで)展示作品より
山口県立美術館副館長 河野 通孝