春の海ひねもすのたりのたりかな(与謝蕪村)の句をそえた穏やかな瀬戸内の海の絵の葉書が、緑さんから届いた。
海を見に行こう。バスに乗って一時間。小さな集落をいくつか通って、高台のホテルに着いた。テラスから見渡す海は、曇りの日だったこともあって海も空も境なく連なって視界すべてが朧。風もなく一艘もなく、まさにのたりのたり。上手に鶯が鳴いている。
一九八三年七月、―あらゆる生命の起源である海、その海をひとつずつ抱え持つ存在である女たちの詩誌「現代詩ラ・メール」新川和江、吉原幸子編集―が誕生した。“実在の海にまなんで塩分を失くさず、真にいのちある詩の母胎となるよう、多くの書き手読み手たちと一緒に本誌を育てて行きたいと思う”と新川氏は後記に書かれている。一九九三年終刊。季刊で四十号。最初から十年間の約束の詩誌だった。安定の惰性的出版を恐れての事だ。“すべてに、自分の世界を育て続け、いつかきっと「詩を書いてきてよかった」と思う日が来ますように”と吉原氏は後記に書かれている。私は十年間幾度も投稿した。二度掲載されただけだが、深い海底から明るい空を見た嬉しさだった。拙い詩だが今も続けている。
ホテル始発のバスの乗客は私一人で、一番前に坐り海を独り占めした。