さあ、寝よう、と布団を首まで引き上げ目を瞑るといろんなものが現れる。
赤いマニキュアの中指が一本、四十五度の角度で瞼の裏の暗闇に出て来る。昼間テレビで見たウクライナ南東部を走る戦車砲の角度で。急いで目を開ける。中指といえども発射してはならない。一日の労働につかれ、眠りに入ろうとしているどこかの国の誰かの心臓を射抜くかもしれない。
目を開き、足を揃えて枕を正し、もう一度目を瞑る。
目のない人の顔がある。誰なのかわからない。古い家の鴨居の上に飾ってあったご先祖様の誰かのような。目を凝らすと顔は揺れ崩れて行く。あなたは誰なのですか? 私に何が言いたいのですか。遠い昔からの私への伝言があるのですか。顔はますます揺れて闇の中に散っていく。
もう一度目を開け、寝返りをうって再び目を瞑る。固く瞑ると、小さい光がパッパッパと点滅する。脳から送られてきた信号のようだ。瞬いていた光が一つに集まって光の道を作る。ついて行ってみよう。道は細くなり終わりか、と進むと、又、同じ道が出現する。歩く。両側は闇。どこに行くのだろう。独りだ。
目を瞑るとわけのわからないものが現れて、怖くて眠れない。目を開き、ラジオをつけ現世の人の声を聞く。