幸さんに私はこうグチった。「料理するのが面倒で仕方がないわ。簡単な卵かけご飯だって、まず、卵を買いに行かないといけないでしょ。米を洗い炊いて、茶碗を出して、卵を割って醤油かけて、醤油をかけすぎたり、混ぜている時に茶碗からこぼれたりする。茶碗を洗って、卵の殻を燃えるゴミに出して、ああ、面倒」。幸さんが「認知症の前駆症状に、料理が苦手になるらしいわよ」と言った。私は心配になった。「クレオパトラが愛飲していた赤いサフラン茶を飲んでる人がいるのよ。凄い元気。女性ホルモンが一杯出るらしい。取り寄せて送るわね」と言った。
そうか、あのクレオパトラか、なんと時代がかったことよ。女性ホルモンと認知症の関係は知らない。
なかなか送られてこない。と思っていたら、幸さんから葉書が届いた。「認知症の治療法に料理を作ることがあるんだって。料理の手順を考え手を動かすことは脳の働きを活発にするのよ。クレオパトラより自力で脳を活発にした方がいいわよ。認知症療法と思えば料理もできるでしょ」。末尾に『無礼なる妻よ毎日馬鹿げたものを食わしむ 橋本夢道』と赤ペンで記してあった。
認知症と料理とクレオパトラとサフラン茶、無礼なる妻、ああ、なんのこと! 滅茶苦茶。