十八時、電話が鳴っている。ふーと息を吸い込むように受話器が膨らみ、リリリィと息を吐き出すように鳴る。この時間の電話は華子さんだ。
「もし、もし。夕方のこの時間帯が一番嫌なのよ。なんか淋しい。すっかり暗くなったら、気持ちがシャンとするんだけれどね」と笑いを含んだ声で言う。彼女は独り暮らしで、私と同じ七十代後半。月に四、五回は電話で話す。いつも夕暮れ、逢魔が時。
古布で手提げ袋作ったから送るね。犬が夜吠えるの。胡瓜の漬物の作り方はね、と一時間話して、「もう大丈夫、落ち着いたわ。では、又」。
二十時。枕元の電話が鳴る。私はベッドでラジオを聴いている。この時間は橘さんだ。瀬戸内の島からかけて来る。彼女は高齢の母親と二人暮らし。年下の友人だ。「もし、もし。母をお風呂に入れて寝かせたわ。おしゃべりしていい?」。
母がね、ご飯を二杯も食べて、甘鯛を片身ペロリよ。テレビの調子が悪いのよ。窓を開けているんだけれど、波の音聞こえる? と一時間話して「おやすみなさい」。いつも月の綺麗な夜にかかってくる。
日本のあちらこちらで、女達がおしゃべりをしている。今日一日の気持ちを整理して、明日元気でがんばれるように、エールを交換している。