『野田弘志ー真理のリアリズム』展を観た。あれから一ヶ月以上経つのに絵達が身体に残っている。なんという緻密な描写。細部まで神経の緊張がいき届いた精確さ。寄せて来る抒情。
数年前、野田弘志氏の存在を知った。その画力に驚愕し、彼の絵が展示されている美術館を探し、図録を取り寄せた。図録の最初は今回も展示された「谷川俊太郎氏の肖像画」。野田氏はこう記している。
《谷川さんを通して、人間の根源的な存在の美しさ、その限りなき深さに迫っていかなければならない》。
山口県立美術館の会場を出てしばらく歩いてつぶやいた。・・・なんか面白くない。
若い女性の裸婦が数点あった。細部まで正確。写真では映し出せない深い所まで完璧。
石を蹴った。鳩が飛び立った。面白くない。何故? 老女がいない。私がいない。今回の展示作品には、老女はいなかった。老女の裸体には深い陰影がいたるところにあり、描くのは至難の業だが、野田氏には余裕で描ける。野田氏は、人生の重みを身体中に刻んでいる老女には芸術的魅力を感じなかったのかしら。老爺は力作谷川氏があったが、着衣だ。
なんかさぁー、ちょっとだけ淋しい。甘いケーキでも食べて帰ろう!