一面の浅い緑色の稲が風になびくのを見るのは好きだ。風が、右から吹けば一斉に右に、左から吹けば左に身を傾ける。気ままな風が渦を巻くと稲は踊る。濃い緑色に重なって、楽しげに舞う。
米を作ったことがないので、その苦労は知らない。ただ、美しいなあ、と幼い頃から馴染んだ風景に酔うだけである。その私の原風景の中には、汗を流し、腰を折り、労働する人達の姿が重なる。声も聞こえる。
今日もご近所の緑色の田を眺めて帰ってきたら、林嗣夫氏から詩誌「兆」が送られてきていた。私がお願いして送っていただいている。
俳句に行き合う 林嗣夫
歴史-
生きかはり死にかはりして打つ田かな
村上鬼城
この一行に尽きるのではないか/産業革命も/人権宣言も/田がなければ成り立つまい/
平地はもとより/山の斜面までも切り拓き/水路と石垣を築いてきた/
途方のない生死のドラマ/永劫回忌/そこにはトンボ
サワガニ/オオルリや毒蛇/風や月までも/姿を現わしてきたことだう/棚田に幸あれ
縄文の森から出て稲作を手にした祖先。生きかわり死にかわりして田を打ってきた。私は緑の田が好きである。特に夏の陽に輝く田は良い。