また、やってしまった。鏡の前で呆然としている。
コロナ禍で出かける予定もないのに、外出用のワンピースを通販で買ってしまった。通販のカタログの中のモデルがステキに着こなしているので買った。自分が着ることを考えなかった。カタログの表紙に『五十代からの大人のためのファッション』と書いてあるから、大人である私にも、モデルと同じように似合うと思った。大人であるべきモデルは良く見れば三十代だろう。私は彼女よりずっとずっと大人だった。忘れていた。
日頃は全身を鏡に映すことなどしないから、現実の自分を失念して頭の中で美化していた。だから、デパートの大きな鏡に自分が映し出された時、思わず他人だと思ってしまう。「そんなに前屈みの姿勢で歩いているあなたはどなた?」となる。
ブティック等で服を買う時は、試着する。それで嫌でも現実がわかる。どんなに鏡の前で背を伸ばしたり髪を掌で慌てて撫でつけても、作り笑いをしても現実がわかる。似合う服がわかりそれを買う。
通販は違う。何度失敗しても写真のモデルは私なのである。服が届いてワクワクして着る。違う、違う。こんなはずではなかった。どうして可愛い子犬の柄が長く伸びたダックスフントになるの? 鏡の前で笑うしかない。