私は、毎朝ハムエッグを食べます。でも、私はハムエッグは好きではないのです。ハムエッグの卵の黄色の目玉。あれはヒヨコの体です。柔らかな卵色の羽の色。桃色のハムは、子豚の骨付き腿肉。豚舎を走り、寝転がる足なんです。フライパンの上でジュージューと焼ける音は、彼等の精神なんです。
まだ熟さなかった彼等の幼い心が、一気にフライパンの上で熟され、膨れて、成熟するのです。フライパンの中で生を走り抜けるのです。少し湿ったくぐもった音は、彼等が大急ぎで一生を辿っている音なのです。火を止めると静かに老成する。
合掌して目玉の黄身を吸います。目を瞑り、唇を斜めに軽く当てて、吸い上げる。唇から少々黄身がはみ出してもいいのです。黄身はヒヨコの真心ですから、一心にそのことだけを思って食すのです。いえ、時には亡くなってもう会えない人達を思い出してもいいのです。黄身を吸うようにその人達を過去から吸い上げる。ハムも同じです。これは親指と人差し指でつまんで食べます。この柔らかな感触は子豚の躍動する心です。
私は、明日も元気に生きていきますから、ハムエッグを美味しく食べます。今日は雨ですが明日は晴れの予報です。