巨岩の間を縫うように続いていく小径。そこを歩く高士と従者。巨岩から生える樹木とその枝ぶり。
雪舟の「国宝・山水長巻」(毛利博物館蔵)を見慣れた方にとってはおなじみの光景だと思う。とはいえ、雪舟の描いた絵にしては随分と柔らかい。描いたのは狩野探幽。江戸初期から幕末まで、長きにわたって徳川将軍家の御用を務めた江戸狩野派の、土台を築いた大画家である。
つまり、この「雪舟山水図巻」(個人蔵)とは、雪舟の絵を丹念に学習しながら、独自の画風を確立した探幽晩年の優品であり、その画風こそが、後の狩野派山水図のお手本となっていく作品なのである。
と同時に、大画家である探幽が、雪舟風探幽様式を確立したということこそ、雪舟の名声をさらに高める一因ともなった。
※「唐絵の系譜 Ⅰ部・将軍家の襖絵/Ⅱ部・雪舟と狩野派」展(10月16日まで)展示作品より。
山口県立美術館副館長 河野 通孝