朝、窓を開けたら、窓と網戸の間に、青い羽の小さな蝶がアルファベットのDの形で死んでいた。
この蝶は昨日の午後、赤紫のアザミの花にとまり蜜を吸っていた。ステンドグラスのような青い羽が初夏の陽にとても美しかったのを覚えている。いつの間に、出られない窓と網戸の隙間に、入ってしまったのだろうか。
テレビドラマの中で青年が、縁側の柱に背をもたせて座って本を読んでいた。あら、これはLの形ではないか。
散歩していたら、公園の木の下に少女が立っていた。すっきりと伸びた背。清潔に盛り上がった胸。右足を少し前に出している。これはRだ。
門柱の上でノラ猫が気持ちよさそうに寝ている。これはQの字。ときおり吹く風に毛がNの形で逆立っている。
夏休みのラジオ体操の会場にはアルファベットがいっぱい。体操の号令に合わせて、子供達は両手を上げてIになり、TやJになって飛び跳ねて、丸まってOになる。KにもMにもPにもなり、身体をぐるりと回転させてSになる。しゃがんでZ。広場はアルファベットの氾濫。
体操が終わると、アルファベットが散っていく。Mの形で連れだって、肩組んでHで、Jの形で石蹴りながら、Fの形で手を振って。空には逆立ちしたU字の雲。