私は、美容院に行くためにA町に行きました。そこには長年の友人の英子さんが開いている美容院があるのです。三か月に一回白髪のカットに行くのです。よもやま話もあるのです。
朝早く着いたので、商店街にはまだシャッターが下りていました。配達の車やバイクが忙しく走っています。
道路の真ん中に掌くらいの黒い塊があり、その横を子ツバメが鳴きながらよちよち歩いています。黒い塊は死んだ子ツバメで、歩いているのは羽が傷ついた飛べない子ツバメです。
通りかかった年配の女性が「このままではこの子ツバメも轢かれるわ」と言いました。「それでは役所に電話して方法を尋ねましょう」と私。頭上を幾度も舞う親ツバメ二羽。死んだ子ツバメの上は十センチの低空で飛び、鳴く子には励ますように旋回します。二人の目は潤みます。親ツバメの鋭いナイフが突き刺さったような不安な子を思う心がわかるのです。
役所の人が来て、死んだ子ツバメを袋に丁寧に入れました。「ツバメは保護鳥なので人は触れないのです。ここに置いておくしかありません」。親ツバメは飛び続けます。
見つめあう、役所の人と女性と私の六つの目。私達は知っているのです。結界があることを。皆、潤んだ目をしています。