2021年8月、米軍の撤退と共にイスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧した。国際機関や日本大使館で働く日本人職員は国外に退避できたが、現地スタッフやその家族ら500人は退避できなかったというニュースも記憶に新しい。山口大学に留学経験のある数組のアフガニスタン人とその家族たちが、タリバン政権下で生活が大きく変わった同国から山口に避難してきている。かつて同大学院に在籍した30代女性もその一人だ。
女性は2015年から約3年間、開発途上国への国際協力を行うJICA(独立行政法人国際協力機構)の留学生として山口大学大学院で学んだ。同国への帰国後は国際機関に勤めていたが、タリバンの政権掌握後、職を失い生活が一変した。家族全員の銀行口座は凍結され、女性は一人で外に出られず事実上の軟禁状態。自由を奪われた生活が数カ月間続いた。なんとか状況を打破したいと思った彼女は、かつての勤め先やJICAに国外退避を相談するが叶わず。あらゆる知人にSOSの連絡を送った中で、唯一返信してくれたのが山口大学非常勤講師で、語学スクール「ワンワールドインタナショナル」代表の尊田望さんだった。
尊田さんは、女性の留学時に授業を受け持ち、学生同士の交流会を企画するなど交流があった。「いたずらや迷惑メールにしては文面がきちんとしていた。帰国後、彼女とのやりとりは途絶えており、半信半疑で返信した」と振り返る。そして、2022年2月に尊田さんと女性は通話アプリで会話。「すぐに退避させるべきだ」と命の危険を感じた尊田さんは、直ちに自らの家族に相談。女性を山口へ呼び寄せることを決めた。
尊田さんが身元保証人となり、女性の在留資格を広島入国管理局下関出張所に申請。その後、女性を語学スクールのスタッフとして雇用することを決め、長期就労ビザも申請した。ビザが4月に認定されると、女性は日本大使館のある隣国のパキスタン経由で日本に入国。何とか山口に退避することができた。
生活の中の「壁」
無事に山口に来たことで命の危険は去ったものの、生きていくためには様々な問題がある。一番は生活するための収入の確保だ。まず、彼女の在留資格では、就労できる業務に制限が設けられている。そして、留学経験はあるものの、まだ日本語が流ちょうとは言えない彼女は、日本語能力も求められる職業には即就職できない「言葉の壁」に直面している。
「アフガニスタンに戻っても未来はない。今も食欲はあまりなく、よく眠れないこともある。でも、せっかく救われた命だからこそ、『助かってよかった』で終わらせず、自分の能力を生かした仕事に就き、いずれは日本に両親も呼び寄せたい」と、女性は将来の希望を語る。
永住権の取得には、「将来において安定した生活が見込まれること」が必須条件だ。「生活基盤を整える第一歩として、まずは来年の春までにワンワールドで英会話レッスンのクラスを持ちたい」という彼女は、いわゆる「ネイティブスピーカー」ではない。しかし、尊田代表は「JICA留学生として来日し、授業は英語で受け、修士論文も英語で書いた彼女の語学力は文法も問題なく発音もきれい」と評価する。
「会話中心のレッスンや外国人と直接話す度胸をつけたい人、人道支援をしながら英会話のレベルを上げたい人は、ぜひご連絡を。プライベートレッスン、グループレッスン、回数なども応相談。無料体験も可能」と二人は山口の人たちに呼び掛ける。
食と文化の交流イベント開催
また、ワンワールド・インタナショナルでは、アフガニスタンから退避してきた他の留学生家族を支援する交流プログラムも実施している。「食や文化を体験することで交流や親睦を深め、支援の輪を広げていきたい。まずはアフガニスタンのことを知ってほしい」と尊田代表。次回の開催は、10月23日(日)午前11時半からセントラルコーヒー(山口市中央1)である。レッスンやイベントの予約・問い合わせは尊田さん(TEL090-4654-8264)へ。
※本人特定を避けるため、女性の氏名と写真は非公開とさせていただきました。