「おれは 鹿の肉を くう それは おれの血 おれの肉となる だから おれは 鹿だ」
この作品は、幼少期を樺太で過ごした児童文学者の神沢利子さんが、自身の生命観を、シベリアで暮らす若い猟師のことばに托してうたった詩です。
若い猟師が川をさかのぼってやってきたのは、鹿の好物の水草が生えている岸辺。森の主、川の主に祈って鹿を呼びよせ、銃を放つと、鹿は四足を天に向け、静かに息絶えました。その鹿に感謝の祈りをささげ、一本の骨も傷つけることなく解体し、妻子の待つ小屋へ帰って行くのです。
彼の父も祖父も、同じように鹿から生命をいただきながら、自分たちの生命をつないできたのでした。食べる肉も着る服も、母親の満月のような乳房からほとばしる乳も、みな、鹿の生命からおくられたものなのです。
絵を描いたのは、シベリア在住で、ロシア人民美術家の称号をもつ画家です。大きな画面いっぱいに描かれた繊細な色合いの細密画によって、詩にこめられた大自然の摂理が一段と深く強く胸に迫ってきます。
福音館書店
作:神沢 利子
絵:G・D・パヴリーシン
ぶどうの木代表 中村 佳恵