私は月一回山口市内のM町に出かける。その時A停から十二時過ぎのバスに乗る。行先は『吉部』。バスはたいてい満員で九割女性。私と同年配の七十代か八十代の方が多い。全員、大きな荷物を両手に下げている。背中のリュックも膨らんでいる。食料品かしら。今日の彼女達の食卓は賑わうことだろう。ほとんどの人が白髪交じりの頭に帽子を被り、スラックスにウオーキングシューズ。穏やかな顔で座っている私に似た人達。大好きな雰囲気だ。
彼女達はどこまで行くのか。彼女達の生活の場は、どんな所だろう。いつか終点の吉部まで行ってみたい!
ある日、思いきってあのバスに乗って『吉部』まで行った。いつものように私に似た彼女達と一緒だ。
ひと駅ごとに一人二人と下車していく。長門峡を過ぎた頃には三分の一になり『生雲』で全員下車。私独り。窓の外は田畑に山、山。夜は真っ暗だろう。バス停の名が面白い。銅(あかがね)。蔵目喜(ぞうめき)。本で調べたら、この辺りは蔵目喜川の下流で銅が産出され銅山町として栄えた、とあった。
約一時間、終点『吉部』。静かだ。全ての音が山に吸い込まれていく。バス停付近には誰もいなかった。バスはここで折り返す。「このまま帰ります」。再び一番後ろの席に女王様のように陣取り、バスの旅を楽しんだ。