2022年2月24日、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始。このことは、人道危機はもとより、世界的な資源価格の上昇や経済の不安定化をもたらした。わずか1年前には、身の回りの様々なモノが繰り返し値上げされるような世の中になるとは、全く想像していなかった。一昨年11月の就任から、そのような1年間を駆け抜けた伊藤和貴山口市長に、今後の市政運営などについて聞いた。
(聞き手/サンデー山口社長 開作真人)
―あけましておめでとうございます。山口市長に就任されてから、約1年が経過しました。まずはこれまでの総括と、振り返ってのご感想をお聞かせください。
伊藤 渡辺純忠前市長からバトンタッチされ、市政が停滞することだけは避けよう、しっかり前進させようとの思いで取り組んできました。とはいっても、新型コロナウイルス関連、さらに原油価格や物価の高騰等への対策が、まずやるべきことでした。その上で、渡辺市政が続けてきた「21の地域づくり」と、「広域県央中核都市づくり」などの都市政策を進めていく。そのようなバランス感覚が求められた1年間でしたね。
―昨年の新年を迎えたころには、世界情勢がこのようになるなど思いもしていませんでした。物価も高騰し、市民生活を直撃している…。
伊藤 ウクライナ情勢に加え、中国のゼロコロナ政策も響きました。生活者、そして事業者を支援しようと、本市独自の総合経済対策を、「第12弾」の拡充版まで実施してきました。「第13弾」以降も、節目節目でしっかり打ち出していきます。
―安心して住み続けるためにも、こうした支援はありがたいです。山口市の人口動態の現状はいかがですか?
伊藤 2020年の国勢調査における本市の人口は、約19万4000人でした。これは、新市発足時の国の将来人口推計を6000人上回っています。全国的な人口減少局面において、健闘しているのではないでしょうか。そして、社会増減に目を向けますと、転出数よりも転入数が上回る転入超過となっています。年齢別では、特に30代や40代の子育て世代の転入超過が目立っており、「本市が子育て世代に選ばれている」状況です。全国的に子どもの数が減る中で、本市においては保育園および放課後児童クラブの待機児童も多く、それはそのことの現れだと思います。
―では、20代の若者の動向についてはいかがでしょう。
伊藤 大学が多い町の宿命かもしれませんが、卒業時にどっと出ていっています。20年までの5年間で、約2000人の転出超過です。特に、広島や福岡を始めとした大都市圏への転出が続いています。彼らが山口市にとどまってくれるような雇用の場を、いかに創出していけるかが大きな課題だと考えています。
20代前半以外、すべての世代で転入超過
―伊藤市長も私も、大学進学のため一度は市外に出て、また山口市に戻ってきました。その下の世代はどうですか?
伊藤 大学進学世代は転入超過です。
―他県に進学・就職する市内高校生よりも、他の市町から大学や専門学校への進学などで来られる人の方が多いわけですね。
伊藤 さらに言えば、0歳から100歳までの年齢軸で見てみますと、転出超過になっているのは、20歳から24歳の世代だけです。他は、すべて転入超過です。若い世代は「遊ぶ場所がない」と不満を感じ、逆に50歳を超えると「良い街だ」と感じていただけるようですね。
―では、人口動態を地域別に見るといかがでしょう。
伊藤 阿東、徳地、秋穂の3地域は、国の過疎法によって過疎地域に指定されています。原則市町村単位で指定されるのですが、この3地域は平成の大合併前は単独の町だったため、指定を受けました。過疎地域の要件を他の地域に当てはめてみますと、仁保、小鯖、陶、鋳銭司、名田島、秋穂二島も該当します。人口の減少が急速に進むこれら9地域は、そのほとんどが農山村エリア。つまり、市内における第一次産業の担い手がごっそり減りつつあるということです。そこで、2022年4月に専任の部署となる農林水産部を立ち上げました。新規就農者への支援や、労働力が少なくても対応できるスマート農業の環境づくりなどに取り組み始めたところです。農山村エリアの転出超過ゼロを目指し、移住定住促進の強化や、「農山村にぎわい計画」の策定なども進めていきます。
本格化する「山口都市核」づくり
―2005年10月の新市発足以来、まず「21の地域づくり」を、続いてJR新山口駅南北自由通路・橋上駅舎や駅北拠点施設の整備等「小郡都市核」づくりに取り組んで来られました。そして、いよいよ今後は「山口都市核」づくりが本格化してきます。
伊藤 山口都市核の中心に位置する市役所新本庁舎は、2023年3月に着工します。新本庁舎棟は、約2年間の工事を経て、2025年度の供用開始を目指します。市民への総合的なサービスセンターとしての役割に加え、交流棟や広場も一体的に整備。地域の回遊性を高めることで、新たなにぎわいや交流を生み出す場となるよう計画しています。
―周辺地域についてはいかがでしょうか。
伊藤 亀山近辺には、文化、教育施設が集まっています。そして、県道204号を挟めば、商業施設の集積する中心市街地になります。特性の異なるこの二つのエリア間の回遊性を向上させようと、国が推奨する「まちなかウォーカブル」推進事業に取り組みます。
―両エリアの行き来には、今は地下道を利用するケースが多いです。そのため、実際の物理的な距離よりも、心理的には長く感じてしまいますね。
伊藤 早間田交差点の平面横断化、歩道の凹凸の解消、人々が休憩できる空間の確保など、歩行環境の改善・整備を進めます。さらに、店舗前の歩道を飲食スペース等に利用できるような規制緩和も検討。パークロードから山口駅通りにかけて、訪れた人が思わず歩きたくなるような街中形成をしていきたいと考えています。
―新本庁舎の隣に位置することになる、山口市民会館の今後についてお聞かせください。
伊藤 山口市民会館は、県都山口の文化芸術・交流の拠点として、1971年8月に完成しました。以来、本格的で質の高い文化芸術に触れる場、文化活動や児童生徒の発表の場としてなど、多くの市民に長年親しまれてきました。ただ、開館から50年が経過し、施設も老朽化しています。現行の建物を改修・更新するのか、建て替え整備をするのか、速やかに検討していきます。まずは、アンケート調査や関係者による会議体を設置し、様々な視点からの意見を寄せてもらいます。そして、今年の秋頃を目途に、今後の方針を取りまとめます。
2050年「ゼロカーボンシティ」を実現
―中心市街地では、「脱炭素」にも取り組まれます。
伊藤 2021年12月に、2050年の脱炭素社会実現に向けた「山口市ゼロカーボンシティ宣言」を行いました。さらに、2022年3月に策定した「山口市スマートシティ推進ビジョン」の重点プロジェクトの一つに「地域脱炭素推進プロジェクト」を位置付け。こうした中2022年11月に、県内で初めて「脱炭素先行地域」に選定されました。
―具体的にはどのような取り組みを?
伊藤 中心市街地エリア、市役所新本庁舎、2024年度に供用開始予定の「(仮)湯田温泉パーク」等が対象となります。まちなか居住を促進するためのEVカーシェアリングの導入、中心商店街立地店舗への省エネ設備等導入支援、再生可能エネルギーを活用したイベント等の実施、エネルギーの地産地消促進、アーケード街周辺建物への太陽光発電設備導入などを計画。そして、この先行地域における取り組みに加えて、市内全域でも地域脱炭素への展開を進めることで、2050年におけるゼロカーボンシティの実現を目指そうと考えています。
山口線への中園町新駅設置 複眼的に様々なアイデアを検討
―「JR山口線に新駅を設置」とのお考えがあるとお聞きしました。
伊藤 2022年4月、JR西日本が赤字ローカル線の輸送密度・収支率等について公表。7月には国の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」で、宮野駅以北が輸送密度の低い線区の一つに挙げられました。ただ、新山口駅から宮野駅までは「黒字路線」です。そこで、今後の活性化策、「黒字路線」部分の収益向上策を議論する中で、「新駅設置もあり得るのかな」とのアイデアが出ました。
―新駅の候補地は?
伊藤 中心商店街のある「山口エリア」と、様々な集まりが開かれる「湯田温泉エリア」との中間点となる中園町周辺です。両者を“つなぐ”べき場所なのですが、まだ実際にはそうなってはいません。ここは「情報・文化ゾーン」として、YCAMや中央図書館などがあり、近隣には専門学校や高校も立地しています。さらに、建て替え整備の進む済生会総合病院や、大規模屋外イベント空間にもなる中央公園のインフラ整備も進められており、来街者は今後増えていくと予想されます。その一方で、周辺の駐車場は圧倒的に不足しています。そこで、ここに新駅を設置したらどうなるのか、シミュレーションしてみます。また、2023年4月に3駅(新山口、湯田温泉、山口)で「ICOCA」など交通系ICカードが使えるようになりますが、それが全駅もしくは宮野駅までの全駅で使えるようにしたらどうなるか、などのアイデアもあります。複眼的にいろいろ考えてみて、効果が見込めそうな案については、本格的に検討していくことになります。
―では、最後に市民に向けて一言お願いします。
伊藤 皆様から寄せられる大きな期待をしっかりと受け止め、これまでの市政運営を引き継ぎつつも、新しい社会的課題への対応と挑戦を続け、将来にわたって持続可能なまちづくりを進めていきます。今年は、私による市政運営が実質的にスタートする年となります。新しい時代へのまちづくりに向け市民の皆様と共に歩んでいく、そういった1年にしたいと考えております。どうぞ、よろしくお願いいたします。