夕刊売
来てみれば此処(ここ)も人の世
散水車があるから
汽車の煙が麦食べた
実用を忘れて
歯ブラッシを買つてみた
青い紙ばかり欲しくて
それなのに唯物史観(ゆいぶつしかん)だつた
砂袋
スソがマクレます
パラソルを倒(さかさ)に持つものがありますか
浮袋が湿りました
【ひとことコラム】表紙に「1924」と書かれたノートから。京都の立命館中学に通っていた頃の詩で、言葉の意味や既成概念を破壊しようとするダダイズムの影響を受けていて難解だが、〈汽車の煙が麦食べた〉という一行からは、蒸気機関車の吐き出す煙が麦畑をおおう情景が見えてくる。
中原中也記念館館長 中原 豊