我が家と軒を接して私の両親の家がある。父は十三年前に、母は七年前に逝き今は空き家である。日中はその家の陽当たりの良い廊下に寝転がったり、仏壇にお茶を供えたりするが、外がまだ暗い早朝や夕方には行かない。薄暗い雨の日も行かない。忘れ物をしても取りに行かない。怖いのである。
両親が私に不都合な事などしないと思うが、今はあの世の人。どういう姿になっているかわからないではないか。私に会いたいと絵画の幽霊スタイルで現れてはたまらない。懐かしさより恐怖が先立つ。暗くなってからは近寄らない。雨の日も出てきそうなので、行かない。雨の日が続くと、仏壇の供物が腐り花がしおれる。でも、知らないふりをしている。
特に介護用のベッドがある部屋は恐ろしい。父は亡くなる一週間前までそのベッドで寝ていた。母はそのベッドで亡くなった。まだ、その霊気が漂っている。私は品行方正ではない。ずるいことも社会で守るべきルールも違反する。この世を見通すというあの世の人達が怖い。
両親が亡くなったベッドは、いろんな機能がついていて便利なのだが、私は一度も寝てみたことはない。引きずり込まれそうなのだ。ベッドの下は赤い炎渦巻く灼熱の地獄・・・。
明日からは立派に生きよう。