ああ、怖かった!
蛙のお化けが私を追いかける。ネバネバした舌を突き出して私を食べようとしている。逃げようにも足が動かない。--私は高齢者なので肉は固く香りもない、内臓も年相応にくたびれている。美味しくない--叫びたいが、声が出ない。ああ、もうダメ、舌に巻き取られる寸前に目が覚めた。夜中の二時。まだ、足は走って逃げようと布団の中でごそごそ動いている。チョロチョロと蛙の舌が這った首はねばついている。
なんでこんな夢を見るのだろう。昼間畑で久しぶりに薄い緑色の蛙を見たからだろうか。翼があったら飛んで悪夢から逃げられるのに。
山際さんを思い出した。彼女は十年前に私が通っていた文章教室の友人で、気さくな六十代の女性。ある日、彼女は「夢」という題でエッセイを書いてきた。毎夜、ご近所を飛ぶ夢を見るというのだ。手を水平に伸ばして、速度は足首を上下に動かすことで調整する。三メートルくらいの高さを飛ぶ。「毎夜飛ぶの?」「そうよ、あなたは飛ばないの?」「飛ばない」。私は、崖から落ちる夢は見るが飛ぶ夢は見ない。
今夜も奇怪な蛙が夢に出てきたら、飛べないから今度こそ食べられる。食べられてもいいか。蛙の腹の中が見られる。ラッキー。