道をしへ 秋吉康
おばあさんの店の軒下には/唐辛子や大根が吊るされていた/ときにはトカゲや蛙が吊るされていたのを/知っているのは/しんとした夏の日盛り/そこを通ったぼくだけだ/(略)
秋吉康(康光)さんは、青葉が美しく茂る五月、亡くなられた。彼は詩人で、私とは長く詩の仲間(彼から教えられることばかり)として語り合ってきた。秋吉さんは、穏やかな人の為に尽くされる方であった。戦後まもなく始まった「山口県詩人懇話会」(三年前に解散)の最後の会長として尽力された。皆は秋吉さんに頼った。感謝しかない。
秋吉さんには「となりにゐた人」という素晴らしい詩集がある。彼に会いたくて、それを探したがない。大事な本だけを入れている箱にいつもあるのにない。どこにもない。
行き会いの空が真っ赤に燃えた日の夜/おばあさんは消えた/おばあさんが消えて/あの店も消えた/犬、猫、蜻蛉たちのように/なんにも遺さないでみごとに消えた(後略)
『’20現代山口県詩選』
秋吉さんはご自分の詩集を小脇に抱えてみごとに消えていった。姿は消えて見えなくなったが、目を瞑ればいつでも会える。語り合える。
詩集「となりにゐた人」の詩はそらんじている。消えることはない。