Y市の「コスモス苑」が先月半ばにコロナによる面会を緩和した。新型コロナワクチン接種済み(三回)・一度の面会者は二名等の七つの約束事はあったが、三十分以内なら面会できることとなった。私と石村さんはすぐに大野さんに会いに行った。四年ぶりだ。
大野さんは、九十八歳。私達が所属していた詩の同人誌(現在廃刊)の厳しく優しい指導者で友人である。
大野さんが八十歳からの六年間に、私達と一緒に外国旅行に三回も行った。好奇心旺盛で、スイスの高原を息切れもなくスタスタ歩かれた。
私達は、二つのテーブルが五メートルの間を置いて配置された部屋に通された。対面に座るのだ。遠い。扉が開き、大野さんが歩行器を押して入って来られた。足は悪くなっていたが、四年前と外目には変わりはない。「大野さん」と駆け寄る私。「下がって、下がって」と叫ぶ職員。大野さんは、微笑んで着席された。が、大野さんに感激の表情が無い。私達がわからないのだろうか?「私です。わかりますか」とマスクを外して顔を突き出す。「マスク、マスク」と叫ぶ職員。石村さんは棒立ち。大野さんは幾度も私達に手を合わす。少し泣いた。
石村さんが、帰りの列車の中で「大野さんのお顔、仏様のようだったね」と言った。