中郷地区に入る道を篠目川沿いに少し進むと、右手に三界萬霊塔という不思議な石碑が立っている。碑からは元禄十五年という文字が微かに読み取れ、この奥にあった観音堂と庵の入口を示すものだという。
三界とは欲界(物欲、食欲、性欲)、色界(物質の世界)、無色界(精神の世界)或いは、過去、現在、未来を示すものだとされている。そしてこの世の生きとし生けるもの総ての霊を宿しているのが、この塔ということらしい。凡人にしてみれば何とも難しい仏教的解釈なのだが、小さな花を付けた野草の間からぬっと突き出た碑は、そのまま通り過ぎるのを躊躇させるような雰囲気を醸し出していて、しばし筆者は、見入っていた。
文・イラスト=古谷眞之助