〈ゆく夏に名残る暑さは夕焼けを吸って燃え立つ葉鶏頭(はげいとう)/秋風の心細さはコスモス/何もかも捨てたい恋があったのに不安な夢があったのに/いつかしら時のどこかへ置き去り/空色は水色に茜は紅に/やがて来る淋しい季節が恋人なの
荒井由美の「晩夏(ひとりの季節)」(1976年)を耳にした時、何かが失われると空の色が変わることを知った。水色の空を初めて見たのだ。恋などしたこともない毬栗頭(いがくりあたま)の中学1年生だったというのに!
ユーミンのこの名曲が影も形もなかったその昔、ヒトはどうやって秋の哀しみを慰めていたのだろう。
「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」(古今集)
答えは、色づきやがては落ちていく紅葉と、恋人を求め虚空に向かって鳴く牡鹿の鳴き声である。
ちなみに、「野分(のわき)」とは秋に吹く肌寒い風のこと。人恋しい絵だな、と思う。
※「ファンタジック・カチョウズ」より(24日迄)。
山口県立美術館副館長 河野 通孝