だんだん詩がわからなくなっていく。若い詩人の幾つかの受賞詩集を読んでもピンとこない。それは私の能力がないからだろう、と落ち込む。詩をわかり近づきたいと考えこむ。できれば取り込みたい。
Aさんが「自分の好きな詩が良い詩なんだよ」と言う。Bさんは「現代詩集を百冊も読めば読み方がわかる」と言った。それではと図書館に行き、詩集の棚の前に立った。現代注目の若い詩人の詩集を、と勢い込んだが、難解だろうな、と手が伸びない。手にするのは同世代か一つ前の世代の詩人の詩集だ。安心なのだ。
横長の黄土色の詩集『遠い蛍・以倉紘平著』に目が留まった。彼は一九四〇年生まれで、私とほぼ同世代。同じ空気を吸ってきた。ずいぶん前に読んだ彼の詩集「夜学生」には心打たれた。また、心を大きく揺られるだろうと嬉しい覚悟をして開いた。
返せ
黒い壁のような大津波に 正座し合掌して/呑みこまれていった東北の老婆がいたという/病床にあって優しかった我が娘もまた近づきつつある/大津波に怯える夜があったにちがいない/正座し合掌して祈ったにちがいない/不条理の神々よ かくもいじらしく美しい魂を返せ
言葉が私の胸を突き上げる。