盆近くの一日、暑さを避けて早朝盆提灯を組み立てた。親族が届けてくれた桔梗の模様の提灯。不器用な私は、出来上がるまで半日かかった。その間にちらりちらりと横を通り過ぎる影。部屋の隅にうずくまる影があった。影たちに低頭し時候の挨拶をする。
人は、命あるものは必ず死ぬと知っている。九十二歳で逝った父や九十八歳で亡くなった母、ましてや百六歳まで生き抜いた伯母に対しては、ただ笑顔と目礼を送る。
『祈ること 記憶すること/なつかしむこと/それが生者に対する死者の絶対の信託である』(「千年」明日の旅・以倉浩平詩集より)
飛行機事故で亡くなった画学生の勇吉君や心臓病で突然逝ったマラソンランナーの幸恵さん。二人の親族の気配はない。
私は彼らの死を認めてはいない。彼らはまだ私の傍にいる。二人は遠い南の島で、勇吉君は太古命の生まれた海を描き続け、幸恵さんは波の打ち寄せる浜辺を赤い靴で走っている。彼らは生きているので私は二人の現世での無事を祖先の霊達に祈る。幸せでありますように。
仏壇の左右に提灯を置く。何度やり直しても右の提灯は左に、左の提灯は右に仏壇に向かって傾く。墨絵の桔梗が灯りの中に咲いている。