せんそうしない 谷川俊太郎
(前略)すみれと ひまわり せんそうしない╱まつの き かしの き せんそうしない╱こどもと こどもは せんそうしない╱けんかは するけど せんそうしない╱せんそうするのは おとなと おとな╱じぶんの くにを まもる ため╱ じぶんの こども まもる ため╱でも せんそうすれば ころされる╱てきの こどもが ころされる╱みかたの こどもも ころされる╱しぬより さきに ころされる╱ごはんと ぱんは せんそうしない╱わいんと にほんしゅ せんそうしない╱(後略)
少し涼しくなったので畑の草取りをしようと思う、と知り合いの高齢の学者に話した。彼はこう言った。
「草を刈るとテリトリーを侵された秋の虫たちが激しい声で抗議しますよ。虫たちの塒(ねぐら)を全部刈り取ると、虫たちは畑を放浪して野菜の芽を食べる。少しの塒さえ確保しておいてやれば畑に出てくることはない。野菜の葉や芽を食べることはない。塒を残さずに全部を刈り取ってしまうと秋の虫たちは害虫になる。人間の勝手な、自己の都合だけを考える行動が美しく鳴く秋の虫たちを害虫にしてしまうのです。人間と虫たち互いのことを考え、共存していかねばいけません。お互い命あるものです」。