これはまあ、おにぎはしい、
みんなてんでなことをいふ
それでもつれぬみやびさよ
いづれ揃つて夫人たち。
下界は秋の夜といふに
上天界のにぎはしさ。
すべすべしてゐる床(ゆか)の上、
金のカンテラ点(つ)いてゐる。
小さな頭、長い裳裾(すそ)、
椅子は一つもないのです。
下界は秋の夜といふに
上天界のあかるさよ。
ほんのり明るい上天界
遐き昔の影祭、
しづかなしづかな賑はしさ
上天界の夜(よる)の宴。
私は下界で見てゐたが、
知らないあひだに退散した。
【ひとことコメント】〈影祭〉は簡素に行われる祭事のこと。きらびやかで優美な星空を影祭にたとえ静かさを強調することで、秋らしい清澄な感じが加わっています。絵本のような語り口の中にも、行の高さの違いや素っ気ない終わり方を通して、〈私〉が住む〈下界〉との隔たりを感じさせます。
(中原中也記念館館長 中原 豊)