近頃髪が薄くなり、右側頭部の禿が見えるようになった。頭頂から右に頭蓋骨のカーブが始まる辺りに子供の小指の爪くらいの白っぽい禿がある。
この禿は、私が四歳の時(一九五一年)、道路近くの空き地で近所の子供達と遊んでいたら、道路の向こう側をチンドン屋さんが歌い踊りながら賑やかにやってきた。当然、子供達は道路に走り出てチンドン屋に一直線。私も末尾を走った。そこに進駐軍のジープが来て私は跳ね飛ばされた。(当時Y市には連合軍が駐屯していた)。
丁度その時、父が仕事で車に乗って通りかかった。交通事故だ、と寄ってみたら我が子だった。進駐軍の兵士が、救助を申し出たが、父は「世話にはならん」と自分の車に私を乗せて病院に走った。戦後六年、まだ誰も戦争時のことを忘れてはいなかった。若い父親は進駐軍の兵士に複雑な気持ちがあったのだろう。我が子の命にかかわることであっても、世話になるわけにはいかなかったのだ。
私は全身打撲で頭に大きな瘤を作り、一時生命の危機を伝えられたが、なんとか生き延び、もうすぐ喜寿を迎える。近頃その瘤の傷跡の禿が目につくようになった。禿をどうこうしようと思っているわけではないが、増毛の広告に見入るようになった。