なんにも書かなかつたら
みんな書いたことになつた
覚悟を定めてみれば、
此の世は平明なものだつた
夕陽に向つて、
野原に立つてゐた。
まぶしくなると、
また歩み出した。
何をくよくよ、
川端やなぎ、だ……
土手の柳を、
見て暮らせ、よだ
(一九三四・一二・二九)
【ひとことコラム】詩集『山羊の歌』の刊行を終え帰郷していた頃の詩。高杉晋作や坂本龍馬の作ともいわれる都々逸(どどいつ)が使われていますが、「水の流れを見て暮らす」と伝えられる部分が「土手の柳を」と上向きの視線になっており、〈此の世〉との間になお微妙な距離があることを感じさせます。
中原中也記念館館長 中原 豊