〈美術館〉と〈噴水〉。意外に付き合いは長い
最初は1881年。上野公園で開催された勧業博覧会場の「美術館」前に、陶芸家・宮川香山の手による高さ3メートルの《噴水器陶人物錦手》が設置され、話題を呼んだ
赤レンガの壮大な建築をバックに、幻獣に支えられた酒甕から大きく水を噴出している様子が錦絵に数多く残されている
最近流行の噴水はといえば、同じく大きく水を噴き出すのが主流なのだが、140年前とは違い、水のみの単独演舞。細い水が水面から噴き出すので軽快かつ華麗である
そして、わが《情景あるいはヘンデルの『水上の音楽』に捧げる》(1980年)。デンと構えて微動だにしない。剛直かつ重厚。流行とは無縁の噴水である。その水は重力に逆らわず、ザーッと音をたて、ただただ滝のごとくに落ちていく
小鳥が遊ぶかと思えば、カラスは勝手気ままに水浴びをし、白鷺は虚空を見つめ佇む。自然が出現してしまう噴水なのである。
※彫刻家・田辺武(1945~)制作
山口県立美術館副館長 河野 通孝