渡川城から1キロも進むと石州街道は渡川橋に差し掛かる。嘉永六年(1854)八月、この橋の200メートル上流部に船渡場が設けられた。それまで洪水のたびに橋が流失し、復旧するまで通行人が難渋していたのを見兼ねた庄屋・伊藤市右衛門が自ら発起人となり、近隣の有力者に計って、綱を対岸に渡して安全に航行の出来る繰船を設置したのである。
その完成を記念して建てられた石碑には寄付者名を後世に伝えるため芳名録が刻まれており、その中には郡内外の多くの名前があることから石州街道の重要性と繰船が如何に期待されていたかが伺われる。昭和八年、コンクリート橋に架け替えられると、この石碑は現在地に地蔵尊とともに移設された。
文・イラスト=古谷眞之助