こんなに暖かく桜も見事に咲いて、気持ち良い季節なのに、なんか淋しい。
細い春の雨が降っている日のバス停。乗る予定のバスが遅れて一人透明なビニール傘を片手にたたずむ。傘を持つ手も飛沫のような雨に濡れて冷たい。スカートの裾が雨に濡れて黒く染みていく時、いい歳をしてなんか淋しい。
カーブを曲がって黄色い車体のバスがやってきた時は嬉しくて淋しかった気持ちは消えたけれど、乗り込むと、車内にはたった一人の乗客。白髪の小さいお婆さんが、前の椅子の取っ手を握りしめて座っていた。お団子のように丸めた髪と前かがみの背中が農業に明け暮れた祖母に似ていた。寂しさがぶり返して来た。祖母の田が休耕田になった時、畦道に座ってじっと田を見ていた祖母の背中を思い出す。春なのに淋しい。
四つ目のバス停から小学生の一団が乗り込んできた。下校時なのだ。車内の空気が春色になって、隣に座った男の子が、ランドセルから絵を出して見せてくれた。「お父さん?」「そうだよ」「格好いいね」「パパは大谷選手に似ているんだよ」「本当、そうだね」「うん」。いつの間にか私の淋しさが消えた。なのに下車して重い荷物を持って歩き出す、とあの淋しさが背後から私を抱く。春の盛りなのに。