朝、六時カーテンを開けると、薄いオレンジ色の光がサッと射しこむ。窓辺の縫いぐるみの熊の目を輝かせ、空色の本の背表紙を益々空色にする。壁のカレンダーを目覚めさせ、机の上の鋏をピカリと光らせ、部屋中をぐるりと順番に照らしていく。すぐに部屋は朝の光りに満ちて六月の朝が始まる。
六月は美しい季節。草木はぐんぐん伸び、艶やかな葉は風に揺れる。雨が降ると、葉の上の雨粒は白く光りながら丸くなって転がっていく。雨脚が強くなると、茂った葉が大きく揺れて大胆に踊り出す。落下し腐り始めた赤い椿が雨粒に最後の赤色を映している。藤の蔓が相手を求めて宙をさ迷っている。キッチンは西側で、夕方になると西日が射しこむ。夏になればここは灼熱の地獄となる。が、今はまだ心地よい。六月は気持ちの良い季節。
一日を過ごした夕日は、朝より濃いオレンジ色になって、スリガラスのさざ波模様を浮き立たせ、洗い桶の水に映している。水にさざ波が立つ。蛇口から流れる水にもオレンジ色をまとわりつかせる。一口飲むと私も染まる。つま先まで水が下ると、私の背はグッと伸びる。六月は魔法の季節。
六月は春の余韻を引きずりながら夏へと手を伸ばす。六月は不思議な季節。