朝刊を読みながら、目玉焼きを食べる。一面の真ん中。潤んだ目の少女が私をじっと見る。ガザかウクライナか。昨日の朝刊では、若い女性が俯いていた。ロシアの兵士の恋人か。年配の女性が天を仰ぐ。どこかの国の若者の母か。
箸で目玉焼きを激しく突く。散る黄身。私は悲しみ飢えた人達から遠く離れて、紙の上だけで嘆き、朝食を貪る。日中、大方は忘れて大声で笑う。が、胸に澱(おり)は溜まり続ける。美味しい朝食はここ数年食べたことはない。
森の若葉 金子光晴
なつめにしまっておきたいほど/いたいけな孫むすめがうまれた//新緑のころにうまれてきたので/「わかば」という 名をつけた//へたにさわったらこわれそうだ/神も 悪魔も手がつけようない//小さなあくびと 小さなくさみ/それに小さなしゃっくりもする//君が 年ごろといわれる頃には/も少しいい日本だったらいいが//なにしろいまの日本といったら/あんぽんたんとくるまばかりだ//しょうひちりきで泣きわめいて/それから 小さなおならもする//森の若葉よ 小さなまごむすめ//生まれたからにはのびずばなるまい
誰でもどの地でも、生まれたからには、伸びねばならない。伸びられなければならない。