中学時代の親友に会いに上京します。律子さんが「鬱気味なのよ。会いたい」と筆不精の彼女が長い手紙をくれたので、なにもかもほっぽり出して会いに行きます。一時間以上新幹線に乗るのは十年振りくらいかしら? それ以上かもしれません。
心配なのは、窓側の席に座ったら、トイレに行く時に隣席の人に身体を少し避けてもらわねばならないのが嫌なんです。通路側にしたらよいのですが、車窓からの眺めは魅力的で捨てられません。この度は富士山を見たいのですもの。横山大観・片岡珠子・草間彌生など、沢山の画家が富士山を描いています。さて、七十七歳の私の目に富士山はどのように見えるでしょうか。
三泊四日の旅です。ホテルを連泊でとりました。部屋の中でおしゃべりし、周囲を散歩し、しゃれた食事をする予定です。観光はやめて自由にします。律子さんを躁状態にするために行くのですから。大切な親友です。鞄の中に、丸々とした頬っぺたのセーラー服の二人の写真を入れて行きます。断捨離なんかしなくてよかった。遺伝子が「もう命も終盤だよ。良い時間を」とささやく。「わかっているわよ。残った機能をフル回転させて、この世を楽しむのよ」。粗相があるといけないので、下着を多めに入れて出発‼