列車に乗ったら、できるだけ窓側の席に座る。私は窓の外の景色を眺めるのが大好き。
六十数年前は、窓の外は田畑ばかりで、草を食む牛を数えたりして遊んだ。子達が手を振ってしばらく列車を追いかけてきたこともあった。私も手を振った。今は列車の速度も速く、あっという間に窓の外を集落が現れ過ぎ去り、田圃や野原を抜け、また、別の町が現れまた消える。人の顔など見えない。
その中で、私は家々を見る。同じような住宅が並ぶ中に、取り残されたような古い佇まいの家がある。瞬時に通り過ぎるが、古家の放つ威厳に満ちた光りは私を捉える。黒い瓦と縁側、広い前庭。この家がもし私のものだったら誰と住むか、なんてことを私は考えるのである。ここには農婦であった祖母と住みたい。前庭にはむしろを敷いて大豆を干そう。
マンションが目の前を過ぎて行く。洗濯物がはためいて、観葉植物が見える。中に窓が閉じられベランダに何もない部屋が一つ。静謐な光りを放っている。この部屋に住みたい。目の前の海に魅了されて過ごしたい。誰と? もちろん独り。海と会話するには独りでなければならない。あっ、あの尖がり屋根の家もいいなぁ。丘の上の家、星が手に届きそう。誰と住みましょうか?