私はゆかう、夏の青き宵は
麦穂臑(すね)刺す小径の上に、小草を蹈(ふ)みに、
夢想家・私は私の足に、爽々(すがすが)しさのつたふを覚え、
吹く風に思ふさま、私の頭をなぶらすだらう!
私は語りも、考へもしまい、だが
果てなき愛は心の裡(うち)に、浮びも来よう
私は往かう、遠く遠くボヘミヤンのやう
天地の間を、女と伴(つ)れだつやうに幸福に。
【ひとことコラム】未知の世界への旅立ちに心躍らせる少年。脛を撫でる麦の穂も、足もとの草も、髪をなびかせる風も、彼を祝福しているかのようです。原詩はフランスの詩人ランボーの十五歳の頃の作品。それに近い年齢でランボーに出会った中也の前にも、新しい世界が開けていきました。
中原中也記念館館長 中原 豊