なんとかせねば、と十年開けたことのない押し入れの整理を始めた。きっかけは「家の中を片付けたら、部屋が広々として気持ち良くなったよ。頭の中もすっきりした」とFさんが言ったからだ。私は家事全般が不得意。特に整理整頓はできない。頭の中も散らかっている。頭脳明晰になるのなら整理しようじゃないか。押し入れの上段と下段に小柄な女性の腰あたりまでの高さの八つの茶箱があった。中に何を入れたか忘却の彼方。恐る恐る開いた。一つには開店祝いなどの貰い物のタオルがぎっしり。これは良い、使おうと茶箱から全部出した。アルミを貼ったピカピカの空間が現れた。素敵、と見惚れていたら詩を思い出した。
臆面 新宮真理
老い先が短いので箱に入ってみる/ぴったりと蓋をして/深く地に埋もれる/細い筒から息をして経を唱える/声が途絶えて しばし/やがて掘り返すと/即身成仏の完成/ワオッ(後略)
そりゃ、入るさ。ヨイコラショ、と茶箱に入り体育座りに座る。腰回りたっぷりの上に足が高く上がらず、入る時に脛に引っかき傷を負った。傷に唾をつけなだめ静かに息を整える。頭が納まらないので蓋は閉められない。快適、快適。夕方までユラリ、揺れていた。整理ははかどらない。