「接着しちゃおうかと思ったけどさ、誰にもバレねえから。でもそうすると俺にバレてるからさ・・・」
絶対に接着剤など使わない。前原冬樹自身にバレてしまうから。となるともう、一本の角材から彫りだすほかないのである。
つまり、どこからどう見てもスルメにしか見えないコレは、スルメではないうえに、一木造りの彫刻なのだ―ウソー!
そればかりか、コレを挟んでいる木製クリップや錆びた金具もまた、当然のように、このスルメではないスルメと一体となって角材から彫りだされたものなのである―エーッ!
ところで、先ほどこの作品を展示し終え、「さあ原稿を書かねば!」とデスクに戻ったばかりの私の視線の先に、窓際でひっくり返ったまま、ぴくりとも動かないカメムシではないカメムシが・・・。
もうバレていると思うが、これは一木造りではない。残念ながら、多分、カメムシの死骸だ。
*9月12日から山口県立美術館にて開催中の『超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA』展(11月10日まで)展示作品より
山口県立美術館 河野 通孝