慶応三年生まれの祖父の文箱の中に枇杷色に変色した和綴じの書類を見つけた。
「昭和十七年 各区長殿 応召軍人見送リニ関スル件 伊佐町長 井藤○○ 表記ノ件ニ関シ左記ノ者出発ニ付キ各事項御了承知ノ上多数御見送リ相成様貴区内ヘモレナク御伝達被下度此段及通諜候也 当日国旗掲揚のこと 第一補充兵役陸軍歩兵 上野村 岩崎雄太郎 上野村 岩崎国雄」
上野村は私の故郷の隣村。山間の貧しい村の働き手を根こそぎ連れて行ったか。権現神社を背景に一枚の写真。制帽の下の雄太郎の目線は真っ直ぐ前を見つめ、国雄の口はきつく一文字に結ばれている。膝の上に揃えた農作業を培った大きな両手。日の丸の旗が写っているが、振っている人の姿は見えない。父か母か妻か年老いた祖父母か幼い子か。
二枚目は「昭和十七年 各区長殿 遺骨帰還ニ関シ御出迎エノ件 伊佐町長 井藤○○ 故陸軍輜重兵一等兵二神村三好浩二 広島陸軍病院ニ於イテ病死左記通達ノ通郷里ヘ帰還セラルベク多数出迎相成度沿道ハ弔旗掲揚ノコト」
二神村は我が故郷。この者に繋がる血脈は絶え、彼らの守った村は今や限界集落。眠る墓地には彼岸花が赤く咲き乱れているが人の声はない。