早朝五時、ポストに配達された新聞を取るために玄関に立つ。スリガラスの玄関戸の向こうにライオンがいる。動物園で見たライオンがいる。でも、開けるといない。毎日、ライオンは玄関先に確かに座っているのだ。
何故毎日スリガラスの向こうにライオンを見るのだろう。考えて、私なりの稚拙な結論に落ち着いた。
地球という惑星が形成されたのが四五億年前、二五〇万年前、アフリカでホモ(ヒト)属が進化し、七万年前、ホモ・サピエンスがアフリカ大陸の外へと拡がる(サピエンス全史より)。
彼らは長い旅を続けた。狩をし、洞窟の中で火を焚き壁に絵を描いた。その洞窟の隅に私の祖先はいた。そこで仲間と暮らしていた。野を駆けるライオンの凛々しさ賢さは、火の側で語られたに違いない。その尊敬の記憶が私の奥深い所にまだ鮮明に残っていたのだ。この寒さと高齢で、表面の記憶が抜け落ち、脳が委縮し隠れていた遠い記憶が出てきたのだ。
毎朝、ライオンが玄関前に座っている。日によって、青年のライオンであったり、横座りした高齢のライオンだったりする。スリガラスの向こうにその姿態が見える。今日は雌ライオンで子連れだった・・・開けるといない・・・。毎朝、私は洞窟で目覚める。