〈名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ/故郷の岸を離れて汝はそも波に幾月/・・・〉
皆さんご存じの唱歌「椰子の実」である。詩は島崎藤村。
浜辺に漂着した椰子の実を見つけたという友人の話に着想を得て、1900年に雑誌に発表した。その脳裏には、椰子の実が南の島から我が岸辺にたどり着くまでに越えてきた遥かなる波路がありありと浮かんでいた筈である。
後にNHKが企画した「国民歌謡」の一つとして曲がつけられ、藤村の感動もまた幅広く知られるようになった。
前置きが長くなったが、写真の作品は、藤村の詩作から75年の後に制作された彫刻である。石から丁寧に彫り出された波間を漂うのは・・・ビール瓶。
我々は藤村の感動を見失いつつあるのではないか―とどまるところを知らない消費の後始末スペースとして、知らぬ間に海を利用してきた報いとして。
若き彫刻家による警鐘から半世紀が過ぎた・・・。
※2月3日(月)から休館中。27日(木)から開館。
山口県立美術館 河野 通孝