月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
お庭の隅の草叢(くさむら)に
隠れてゐるのは死んだ児だ
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
おや、チルシスとアマントが
芝生の上に出て来てる
ギタアを持つては来てゐるが
おつぽり出してあるばかり
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
【ひとことコラム】長男・文也を亡くした翌年の昭和十二年二月に雑誌「文学界」に発表された二篇中の一篇。「チルシスとアマント」はヴェルレーヌの詩などに登場する牧人で、「死んだ児」とは対照的にくつろいだ様子を見せています。月光が静かに降り注ぐ中、詩は「その二」に続きます。
中原中也記念館館長 中原 豊