マイナンバーカードの更新手続きの知らせが来た。その書類に貼る証明写真が必要なので、街角にある自動撮影ボックスで撮ることにした。機械の発する案内に従い、千円札を投入。顎を引き、目を見開き真面目な顔をして指示されたボタンを押した。すぐにカタンと音がして写真が出て来た。
これは私ではない。こちらを睨みつけるような目、くっきりとしたほうれい線、ねじれた唇。これ私? 七十数年連れ添ってきた顔だけれど、なんだか違う気がする。思っていた顔と違う。
もう一度撮ろう。今度は口角を上げて微笑んでみよう。千円札を入れようとして、まてよ、何度してもそんなに変わるはずはないではないか。ボックスから出て、もう一度自然の光の中で写真をじっと見た。唇のねじれ具合なんか両親に似た所もあって、まぁ、いいさ。長年風雪に堪え、喜怒哀楽を共に過ごしてきたのだもの、相棒ではないか。
しかし、この写真は事実を写しているが、私の真実の姿を写してはいない。好きな人と一緒の時には顔は輝く。優しい目をし、おしゃべりが始まれば唇の歪みは丸い円を描く。血が巡り生がほとばしる。
この写真は機械が撮った偽りの私。私を証明する写真が真実の私でなくていいのかしら?