桜の季節はあっという間で毎年見逃してしまう。気がつけばいつも葉桜になっている。今年こそはと春浅き頃から、身構えていた。桜の名所は山口市内に沢山ある。が、私は車も自転車も乗れない。だから、くるくると巡り全部を見ることはできない。さて、と考えた。幸いなことに高齢者には百円で乗れる市内を循環するバスがある。これに乗って窓から花見をしよう。
ああ、ここにもここにもと窓外に桜が現れる。冬の間にも桜の樹はそこにあったのだろうけれど、ちっとも目につかない。暖かい春の風が吹くと、一気に花開く。山に公園に河川敷にちょっとした空き地に。こんなに桜があったのか、と驚く。春の日に包まれ盛りの桜は綿菓子のようにふんわり膨れている。隣の席の女性が「今年の桜は少し白っぽい」と言った。
春なれや名もなき山の薄霞 芭蕉
桜に酔った私は、今度は萩まで遠出しようと思った。峠や海近くの桜が見たい。有難いことに年配の私は萩までの乗車料金百円。片道約一時間半の桜遊覧。一番後ろに座り、左右の花を楽しんだ。峠の桜は窓に当たりそうなほど近い。萩への街道は桜まみれ。萩市内を巡るバスも百円。観光地の案内が車内放送され耳を澄ませた。バスが高台を走ると眼下に春の海。桜と青い海。良い一日だった。