父親を通して自分の将来を見つめる少年の姿を見開きのたっぷりした画面に描いた作品。
時は一九五〇年代。場所は海辺の炭坑町。少年の部屋のカーテンの向こうは、海。おつかいの行き帰りに通るのも海沿いの道。おじいさんのお墓があるのも海の見える丘の上。少年のそばにはいつも光り輝く海があり、その下に掘られた暗い炭坑で彼の父親は働いているのです。
父親もおじいさんも炭坑夫として家族を支えてきました。そして自分もその仕事に就くのだということを、彼は自覚しています。それがどれほど危険な仕事であるかということも。
炭坑で働くことへの覚悟と迷い−−夜、目を閉じると聞こえてくる波の音のように行きつ戻りつする少年の思いは、明るい景色の合間に繰り返し描かれる真暗な炭坑の様子から伝わってきます。
「ぼくは たんこうで はたらく とうさんの むすこ。ぼくの まちでは、 みんな そうやって いきてきた。」
少年が自分に言い聞かせるこの言葉で、絵本はしめくくられています。
(ぶどうの木代表・中村 佳恵)
BL出版文:ジョアン・シュウォーツ
絵:シドニー・スミス
訳:いわじょう よしひと